ペンギンの読書

読んだ本の感想を綴ります。

忘却を味方につけよ「脳が認める勉強法」

 

脳が認める勉強法――「学習の科学」が明かす驚きの真実!

脳が認める勉強法――「学習の科学」が明かす驚きの真実!

 

 記憶力が悪いと自覚している。

買おうと思っていた食材、3年ぶりに会った友人の苗字、第四次露土戦争の年、サイン・コサイン・タンジェントの計算方法、オポチュニティのスペル…

この30年間ありとあらゆるものを忘れ続けてきた。忘却の達人といっても差し支えないほどに。

なぜ覚えたことの大半を悉く忘れてしまうのか。

それは僕に限らず、人類永遠の悩みなのかもしれない。

 

しかし、忘れることは敵ではない、と著者は説く。

忘却という現象は覚えたものを忘れるという受動的な役割とは別に

頭に入ってくる情報をふるいにかける、超強力なスパムフィルターとしての役割がある。

これは脳の検索機能を高めるためと言われる。しょうもないことまで全て覚えていたら脳は情報をすぐに取り出せなくなってしまう。

記憶には<保存>と<検索>の2つの機能があり、

一回覚えたことは1000億個のニューロンで構成される新皮質のどこかに電気信号として保存されており

なんらかのきっかけでいつでも意識上に浮上できる準備が整っている。

例えば、幼少の頃両親と一緒に訪れた景色。長らく忘れていたが、似たようなところやその場所を訪れることによってその記憶は昨日のことのように鮮やかに蘇る。

一度覚えたことは忘れない。ただ、無意識下で眠っているだけだ。

そして、忘れたことは、思い出すことによって保存と検索の能力が向上することも実験で示されている。

UCLAのロバート&エリザベス・ビョーク両氏が「不使用の新理論」(覚えるために忘れる理論)と呼ぶこの法則は、その検索が困難であればあるほど、検索後の能力向上成果が

 

本書は、最新の認知科学の知見をもとに、効率的な学習方法を模索する本だ。

学習には歴史がある。5000年の歴史の中で人間は忘却と記憶を紡ぎ合わせ、進化してきた。

時の洗礼を受けて生き残ったそれらにはなんらかの必然性がある。

また、まだ知られていない訓練法もある。

この本はそれらを科学という光を当ててひとつひとつつぶさに検証している。

忘れるとはどういうことか。勉強環境は変えたほうがいいのか。分散学習やテストの効果。

閃きの発生条件や睡眠の作用など、無意識下で行われる活動についても細かく見ている。

特に面白いのは知覚学習の章だ。

これは羽生名人などトップクラスの棋士がいう「直感」、その鍛え方についての考察である。

刻々と状況が変化する飛行機の操縦で、パイロットには瞬時に判断を求められるある種の直感が必要となる。

その訓練を効率良く習得するために開発された訓練プログラムPLMのノウハウは、我が職業であるワイン鑑定にも適応できそうである。

 

これらの良いところは、全てが「日常に組み込める」ものであるというものだ。

あとは自身の工夫とやる気だけである。

忘却を味方につけて勉強を脳に染み込ませろ。